『悪の花』103 朝の薄明かり

朝の薄明かり

起床の太鼓が兵舎の庭に鳴り響いていた。
朝の風が街灯に吹きかかっていた。

その時刻は、悪夢の群れに
褐色の肌をした青年たちが耳を苦しめられる時。
ぴくぴくと揺れ動く血走った眼のように、
明かりが日光の上に赤い染みを作る時。
魂が、ごつごつとして重たい肉体に押しつぶされて、
明かりと日光の戦いを真似る時。
涙にぬれた顔をそよ風が拭うように、
大気は、消え去っていく事物の戦慄に満たされていて、
そして男は書くことに、女は愛することに疲れる。

家々があちらこちらで煙を吐き出し始めていた。
快楽を好む女性たちは、重たげな瞼をして、
口を開けて、愚かな眠りに沈んでいた。
女乞食が、やせ細って冷たそうな胸を垂れ下げて、
燃えさしの薪に息を吹きかけ、自分の指にも息を吹きかけていた。
その時刻は、冷たさと吝嗇とに混じって、
分娩中の女たちの苦しみがいっそう激しくなる時。
泡立つ血の流れに断ち切られた呻き声のように、
鶏の鳴き声が遠くから、霧掛かった大気を切り裂いていた。
霧の海が建物を水に浸し、
瀕死の病人たちは慈善病院の奥で、
不規則な声で臨終の断末魔を上げていた。
放蕩者たちは仕事に疲れ果て、家へと向かっていた。

赤と緑の衣装をまとった曙が震えながら、
ゆっくりと、人気のないセーヌ川のほうへ進んでいった。
薄暗いパリは、この年老いた労働者は
眼をこすりながら、その仕事道具を手に取ろうとしていた。