『悪の花』121 恋人たちの死

恋人たちの死

私たちのベットは、軽やかな香りに満ち、
ソファーは墓穴のように奥深く、
奇妙な花々が棚の上で、
私たちのため、とても美しい空の下、咲き開くだろう。

競って最後の熱気を汲みつくそうとする
私たち二人の心は、二つの巨大な松明だ。
その松明は、私たち二人の精神という、この双子の鏡の中で、
その二重の輝きを反射させるだろう。

バラ色と青色で作られた神秘的なある夜に、
私たちは唯一の輝きを交し合う。
それは長い嗚咽のように 別れの言葉に満たされているだろう。

のちに一人の天使が、扉を半ば開いて、
やって来て、誠実で陽気に、蘇らせることだろう、
曇った鏡と、息絶えた炎とを。

La Mort des Amants

Nous aurons des lits pleins d’odeurs légères,
Des divans profonds comme des tombeaux,
Et d’étranges fleurs sur des étagères,
Ecloses pour nous sous des cieux plus beaux.

Usant à l’envi leurs chaleurs dernières,
Nos deux cœurs seront deux vastes flambeaux,
Qui réfléchiront leurs doubles lumières
Dans nos deux esprits, ces miroirs jumeaux.

Un soir fait de rose et de bleu mystique,
Nous échangerons un éclair unique,
Comme un long sanglot, tout chargé d’adieux ;

Et plus tard un Ange entr’ouvrant les portes
Viendra ranimer, fidèle et joyeux,
Les miroirs ternis et les flammes mortes.

解説

まずyoutubeにて、この詩のために作られた動画があったのでそれを紹介。

http://www.youtube.com/watch?v=RqQgdt6pgV4&NR=1

特に目立った特長もない動画ですが、ボードレールの写真を背景に、ゆっくりと詩句が映し出されていきます。遠くのほうで鳴り響いているバイオリンの音色は、この詩をもとに作曲されたものなのでしょうか? 調べなければなりませんね。

さて、この詩篇の特徴の一つは韻律にあります。一つの詩行が10音節で構成されているのですが、どの詩行もかならずちょうど真ん中で区切れて5・5に分かれています。だからどうしたと思うかもしれませんが、実は珍しいことなんですよ、これは。19世紀のソネは結構12音節、つまりアレクサンドランの詩行によって書かれていますが、16世紀のソネの大半は、この「恋人たちの死」のように10音節で書かれていたのでした。ただし、その場合、4・6というリズムで10音節の途中に区切りを入れるのが鉄則です。

世界の全てを覆いつくさんばかりの、激しい恋愛の感情を歌ったこの詩はロンサールに代表される16世紀のネオプラトニスムの世界観を想起させなくもないのですが、当時用いられていた10音節のソネという形式を用いているように見せかけながら(別に見せかけてはいないのでしょうけど、フランス語の詩を読んでもいまいちリズムを感じられない僕は「あっ、騙された」と思うのです。)、実はまったく異なる形式のもとに作られているのですね。そして、その形式によって歌われる恋愛感も、ネオプラトニスムのそれとはだいぶ違います。(何が違うかって?うーん、難しいので省略です。)

5・5という左右対称なリズムは、もちろん鏡を思わせます。鏡合わせになった二つのイメージ。詩の主題と照らし合わせて考えてみると、なお美しいですね。