『悪の花』 054 取り返しのつかぬもの

私たちは押し殺すことができるのか、あの年老いた、長い<後悔>を、
生き、うごめき、はいずり、
そして蛆虫が死者を食らうように、青虫が樫の木を食らうように
私たちを糧にするものを?
私たちは押し殺すことができるのか、あの年老いた、長い<後悔>を?

どの媚薬の中に、どの酒の中に、どの煎じ薬の中に、
この古くからの敵を沈めようか、
娼婦のように破壊的で貪欲で、
蟻のように辛抱強いこの敵を、
どの媚薬に? どの酒に? どの煎じ薬に?

言うがよい、美しい魔女よ、 おお! 知っているなら言うがよい、
苦悩に満たされて、幾人もの負傷者に
押しつぶされ、馬の蹄に傷つけられている死者に似た
この精神に向かって、
言うがよい、美しい魔女よ、 おお! 知っているなら言うがよい、

狼がすでに嗅ぎ付け、カラスが目を光らせている
この死に際の者に向かって、
この傷ついた兵士に向かって! 十字架と墓とを持つのを
諦めねばならぬのかを。
狼がすでに嗅ぎ付けた、この死に際の者!

泥まみれで暗黒の空を輝かすことが出来るのか?
闇を切り裂くことが出来るのか、
瀝青よりも濃く、朝も夜もなく、
星もなく、陰鬱な輝きもない、
泥まみれで暗黒の空を輝かすことが出来るのか?

<宿屋>の窓格子に輝いていた<希望>は
吹き消されて、永遠に死に絶えてしまった!
月もなく、光もなく、劣悪な道に苦しむ殉教者を
どこに泊めるというのか!
<悪魔>は<宿屋>の窓格子にあった全てを消し去ってしまった!

素敵な魔女よ、お前は地獄落ちの者を愛してくれるのか?
言ってくれ、お前は許されない罪を知っているか?
お前は知っているか、その毒矢で私たちの心を的にする
<後悔>というものを?
素敵な魔女よ、お前は地獄落ちの者を愛してくれるのか?

<取り返しのつかぬもの>は、その呪われた歯でもって
私たちの心という惨めな記念碑をむさぼる。
そしてしばしば攻撃する、あたかもシロアリが
建物の土台から襲うように。
<取り返しのつかぬもの>は、その呪われた歯でもってむさぼる!

時折私は見た、凡庸な劇場の奥、
響きの良い楽団に照らされて、
一人の妖精が地獄の空の中で
奇跡的な暁に火を灯すのを。
時折私は見た、凡庸な劇場の奥で、

光と黄金と紗に他ならないとある存在が、
巨大な<魔王>を打ちのめすのを。
しかし私の心には、興奮が訪れることがけっしてない、
それは一つの劇場だ、そこで人は待ち続けている
常に、常に無駄に、羽根の生えた紗の<存在>を!