『悪の花』062 悲しみ彷徨う女 Moesta et errabunda

悲しみ彷徨う女 Moesta et errabunda

教えて欲しい、君の心はときどき空を舞うのかい、ねえアガト、
汚れた都市という暗黒の大洋から遠く離れて、
栄光が輝くもう一つの大洋、
純潔さのように、青く、澄み、深い大洋に向かって?
教えて欲しい、君の心はときどき空を舞うのかい、ねえアガト?

海よ、広大な海よ、僕らの苦しみを癒してくれ!
どんな悪魔が海という、荒々しい歌い手に、
唸る風たちの巨大なオルガンの伴奏の中、
子守歌の崇高な役割を与えたというのだろう?
海よ、広大な海よ、僕らの苦しみを癒してくれ!

連れてってくれ、列車よ! 連れ去ってくれ、蒸気船よ!
遠くへ! 遠くへ! この土地の汚泥は、僕らの涙で作られている!
―― 本当なのだろうか、アガトの悲しい心が時折、
こう言うというのは、「後悔の、罪の、苦悩の遠くへと、
連れてってくれ、列車よ! 連れ去ってくれ、蒸気船よ!」

なんて君たちは遠いんだ、芳香を放つ楽園よ、
輝く青空の下、全てが愛と喜びでしかない場所、
人が愛するものが全て、愛するに値する場所、
純粋な欲望に心が溺れる場所よ!
なんて君たちは遠いんだ、芳香を放つ楽園よ!

しかし子どもじみた愛に満ちた青々とした楽園は、
駆けっこや、歌や、キスや、花束や、
丘の向こうで震えるバイオリンは、
そして、夜の茂みの中で交わしたワインの壺は、
―― しかし子どもじみた愛に満ちた青々とした楽園は、

束の間の快楽に満ちた無垢な楽園は、
もはやインドや中国よりも遠く離れてしまったのだろうか?
嘆き叫ぶ声で呼び寄せることはできないのか、
銀色の声でふたたび蘇らせることはできないのか、
束の間の快楽に満ちた無垢な楽園を?