『悪の花』076 憂鬱

憂鬱

僕には、1000年生きた以上の思い出がある。

大きな引き出しの中に、決算書や、
詩句や、甘い手紙、訴訟、恋物語が詰まっていて、
さらには領収書の中にくるまれた、髪の束がある。
そこに隠されている秘密も、僕の悲しい脳には及ばない。
それはピラミッドであり、巨大な地下墓地だ。
そこに収容されている死者は、共同墓地をもしのぐ。
―僕、というのは、月に嫌われた墓場だ。
そこでは、後悔のように、丈の長い蛆虫が這い回り、
奴らはいつも、僕の大切な死者たちに襲い掛かっている。
僕、というのは、萎れた薔薇に満ちた古びた閨房だ。
そこには時代遅れの流行が、山をなして眠っている。
そこには哀れなパステル画と、ブーシェの青ざめた絵とが
ただ寂しく、封の開けられた香水瓶の匂いを嗅いでいる。

何ものも、足を引きずり歩く日々の長さに及びはしない。
特に、雪の降る年月の 重々しい雪片の下で
憂鬱という 暗い無関心の果実が
不死の規模へと広がるときには。
― 生きる物質よ! この先、お前というものは、
あやふやな恐怖に取り囲まれて、
霧がかったサハラ砂漠の奥に眠る御影石でしかない。
無関心な世の中に知られることなく、
地図の上からも忘れられた、老いたスフィンクスだ。獰猛な性格のため、
ただ、沈み行く太陽の輝きに対してだけ、彼は歌う。