『悪の花』034 猫

 

ほらおいで、僕の素敵なネコさん、君を愛する僕の胸の上においで。
脚の爪は引っ込めておくんだよ。
それから君の素敵な眼のなかに潜りこんでも構わないかい?
金属と瑪瑙の混ざりこんだその眼の中にね。

この指先で、のんびりと君の頭や、柔らかな背中を
撫でているときだとか、
この腕で、夢中になって
静電気を帯びた君の体に触っているとき、

僕は自分の精神の中で、妻のことを思っているんだ。彼女の眼差しはね、
君の眼差しに似ているんだよ、愛らしい動物さん、
深くって、冷たくって、まるで投げ槍のように切り裂くんだ。

それに、つま先から頭まで、
繊細な感じと、危険な香りとが
漂っているんだよ、彼女の褐色の体にはね。

 

※034というのは『悪の花』第2版において、34番目の詩篇だということです。別に普通はただ「猫」と言えば良いのですが、ボードレールの作品には「猫」という詩が3つあるので、それを区別するために番号を付けてあるのです。