モーパッサン 『詩集』

Des vers, 1880



1884年版『詩集』表紙 解説 1880年4月27日、出版社シャルパンティエより刊行されたモーパッサン唯一の詩集。Des vers は「詩句」を意味する。
 1880年初頭、モーパッサンはそれまで書き溜めた詩篇をまとめて一冊の詩集にすることを計画し、ゾラと親しく、『メダンの夕べ』刊行予定のシャルパンティエに原稿を送付した。ただし、シャルパンティエは必ずしも『詩集』出版に乗り気ではなかったようで、モーパッサンはフロベールに、出版者を急かす手紙を送ってくれるように頼んでいる(第160信を参照)。最終的に、『メダンの夕べ』に遅れること1週間ほどで刊行された。
 19編の詩、および韻文劇『昔がたり』より成っており、収録作の執筆時期は1860年代末から80年にまでわたっている。
 詩集の冒頭には、以下のような献辞が掲げられている。

ギュスターヴ・フロベール
全愛情を込めて敬愛する、高名にして父なる友
また、何にもまして賞賛する完全無欠な師へ

『詩集』  新聞批評では好意的に迎えられるが、直後にフロベールが亡くなる。日刊紙『ゴーロワ』と契約を結び、短編・時評文の執筆を始めて以降、モーパッサンが韻文を綴ることはほとんどなかった。出版時点でモーパッサンは29歳、『詩集』は青春の記念碑とも呼べよう。
 十代後半より本格的に始まった詩作は、二十代を通して続けられた。この時期、モーパッサンは自らをもって詩人と任じていた。その詩作品には大胆なレアリスムの適用が見られるが、同時に現実の世界を詩的なものへと変貌させ、純粋化、結晶化しようとする試みでもあった。
 なお、1880年末には第3版が刊行され、その際、フロベールによる弟子擁護のための公開書簡が掲載された。
 また、本詩集は1884年に、豪華判として再版されている(5月31日、アヴァール書店)。小説家モーパッサンは、詩人モーパッサンを完全に否定した訳ではなかった点に、注意しておきたい。


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