『悪の花』110 殉教の女

殉教の女

知られざる巨匠の素描画

香水瓶や、金糸細工の織物や、
官能的な家具、
大理石や絵画、豪華に折り目を付けて垂れ下がる
芳香の焚き染められたドレスのただなかで、

温室の中のように暖かな寝室の中、
危険で運命的な空気が漂い、
死に際の花束は、ガラスの棺の中で
その最後の溜め息を付く中、

頭のない死体が、川のように、
赤くて生気溢れる血を、
枕の上に注ぎ渇きを癒し、その布地は牧場の貪欲さで
それを飲み干している。

暗闇が生み出し、我々の眼を虜にする
青ざめた幻影によく似て、
その頭は、陰鬱なたてがみの塊と
高価な宝石とともに、

枕もとの机の上に、キンポウゲの花のように、
身を休めている。そして、思考を失って、
黄昏のようにおぼろげで白くなった眼差しが
白目を向いた両目から漏れ出している。

寝台の上では、裸の胴体がためらいもなく
この上なく身をゆだねた様子で、
自然が彼女に贈り物として与えた
秘密の栄光と、運命の美貌とを曝け出していた。

薄桃色のストッキングは、金の留め金に飾られて、足に、
あたかも思い出のように留まっている。
靴下留めは、燃え上がる秘密の目のように、
ダイアモンドの眼差しを投げかけている。

この孤独の奇妙な情景、
そして彼女の姿態と同じように扇情的な目をした
物憂げな一枚の大きな肖像画の情景が、
明らかにしているは暗い愛欲、

そして罪深き喜びと、地獄のような口付けに満ちた
奇妙な宴。
邪な天使たちは、カーテンの折り目の間を泳ぎながら
それを楽しんでいた。

しかしながら、ごつごつした輪郭の肩の
優雅に痩せ細った様子や、
少し骨ばった腰と、苛立った爬虫類のように
生き生きとした胴回りを見てみれば、

彼女はまだ若いのだ! ―― 彼女の苛立った魂と
憂鬱に蝕まれた感覚とが、
道を失い彷徨う欲望たちの飢えた群れに
身を開いてしまったのだろうか?

恨み深い男の気を、お前は生きているうちに
たくさん愛してやったのにも関わらず、なだめることが出来ず、
生気もなく媚びたお前の肉体の上で、
彼は自分の巨大な欲望を満たしたのだろうか?

答えよ、不浄な死体よ! そしてお前の堅い編み毛を摑んで
熱を帯びた片腕で君を持ち上げて、
私に言うのだ、恐ろしい頭よ、彼はお前の冷たい歯の上に
最後の別れの接吻を押し付けたのか?

―― 嘲弄好きの人々から離れて、不浄な群集から離れて、
詮索好きな役人たちからも離れて、
静かに眠れ、静かに眠れ、奇妙な創造物よ、
不思議な墓の中で眠りたまえ。

お前の夫が世界を駆けても、お前の不死の姿は
彼が眠っている時も、彼をそばで見守っている。
お前と同じくらいに、おそらく彼もお前に対して誠実で、
その死まで心変わりをすることはないだろう。