『悪の花』084 救われえぬ者

救われえぬ者

ある観念、ある形式、ある存在
碧空を旅立ち、落ちたのは
鉛色をした泥水の地獄の川、
天の眼もそこには届きはしない。

ある天使、軽率な旅行者、
奇形の愛に駆られて、
広大な悪夢の奥底で、
泳ぐ者のようにもがき、

戦っている、陰鬱な苦しみだ!
狂人たちのように歌いながら
暗闇の中で旋回する
巨大な渦巻きに対して。

ある魔法に掛けられた不幸な者、
むなしい手探りをして
トカゲで一杯の場所から逃れようと
光と鍵を探している。

ある呪われた者、ランプもなしに降りていくのは
深淵の縁、その臭いが
手すりのない永遠の階段の
湿った深さを告げていて、

そこを見張るぬるぬるとした怪物たちの
燐光を発する大きな眼が、
夜をいっそう深くし
その眼だけしか見えなくしている。

ある船、極北に
水晶の罠のように閉じ込められ、
どのような運命の海峡から
この牢獄に落ちたのかと尋ねる。

救われない運命の
明白な印し、完全な絵、
それを見れば良く分かる、悪魔は、
やること全ていつも見事にやってのける!

暗く透き通った向かい合わせだ、
己自身の鏡になった心とは!
黒く澄んだ真実の井戸、
そこどえは鉛色の星が揺れる、

皮肉な地獄の灯台、
サタンの恵みをもった松明、
唯一の慰めにして栄光、
――悪の中にいるという意識!